昔の話になるが、琵琶を弾いて生計を立てていた目の見えない人がいたことは有名な話だ。事の名人で目の見えない人がいたのも有名な話だ。宮城道雄がいなければ現代邦楽のあり方が違っていたのではないかということを言う人もいるくらいだ。
西洋にも音楽を生業にしていた目の見えない人は多くいた。オルガンの名手であるヴァルヒャ、笛の名手であったというアイク、最近ではスティービー・ワンダーやレイ・チャールズがいる。
今でも彼らを慕って(そんなこと考えてないかもしれないけれど)、ミュージシャンを目指す視覚障害者は常にいるだろう。クラシックの演奏だけでなく、ポップスをやってみたい、うまくいけば自分のディスクを作ってデビューしたい。そんな夢を持つ人がいるのはごくごく自然なことだと思う。
筆者もその昔、ロックバンドをやっていた。当時アマチュアが使える機材はせいぜいカセットテープを使ったマルチ・トラック・レコーダーくらい。これならば視覚に障害があろうがなかろうが同じように使える。とても楽しかった。もう四半世紀も前のことだ。
さて、時代は移り変わって、今日の音楽制作環境はほぼ完全にコンピューターで行うようになってきた。ソフトは複雑化し、あるいはマウスを使うことを前提に設計され、スクリーンリーダーを使ってこれらのソフトを完全に操作することは不可能になった。それどころか、全く操作できないソフトも少なくない。たかだか画面を見ることができないだけで音楽制作が絶望的に難しくなってしまったのだ。
なんとかエディタのようなものを使ってデータを手書きしたり、どうにか使えるかもしれない古い機材を集めてきてがんばってみても、メインストリームで使われている環境が手に入るわけでもない。たかだか画面が見えないだけで諦められるものではない。
ということで、なんとかそれなりにでも使える環境はないかと1年ほど探してみた。できないことなら山のようにあるが、それでも今時の環境で録音をし、MIDI楽器やソフトシンセを使って打ち込みを行って、それらをどうにか編集して、これまたどうにかミックスして、音楽としての体裁が整えられる程度には使えることが確認できた。
そのために必要な機材をそろえると安くはない金額になる。それでも、手も足も出せなかった状態から考えると、大きな進歩である。このページでは、これまでの記録や体験を交えながら、VoiceOverを使ってPro Toolsを操作する方法について書いていこうと思う。
なんとかまとまったページになればと思っている。ご質問などはどうぞ私に連絡をいただければと思っている。
Original 2013/04/xx, Update 2022/10/30)
- システム環境について
- 必要な機材について
- Pro Toolsの購入とインストール
- Artist Mixの設置
- とりあえずセッションを作ってみよう
- 再生・停止・その他の基本的操作
- 音声の録音
- MIDI楽器を使った録音
- 選択の基本
- 音声編集
- MIDIデータの編集
- ステップ入力
- パンチイン・パンチアウト
- リバーブ・イコライザー・コンプレッサー
- まだまだ続く
- 参考情報