録音機材選定あれこれ
この記録は、私が十数年ぶりにいわゆる生録をやろうと思って、そのために録音機材を選んだ時に考えたことと実際に購入してしまったものをつらつらと時系列に書いたものである。読者の中にはもっと違う結論を導く人もいると思うし、もっと違う結論の方が良いかもしれない。購入の参考にこのページをごらんになっていらっしゃるのならば、可能な限り現物を見て決められることをお勧めしたい。また雑誌や掲示板も参考になるだろう。
なんで生録?
これまでも私の手元にはDATのポータブルレコーダーとSONYの ECM-MS957 というマイクがあった。時折友人とバンドをやったりしたときの記録用などに使っていた。学生時代は学校の機材やら先輩のものやらで、学園祭の録音や校内で行われる演奏会の録音などをやっていた。
そうこうしているうちに時代はDATから半導体メモリー記録型のレコーダーへと移り変わっていった。昨年(2007年)の9月頃に R-09 を購入していた。会社で使うために購入していたのだが、実は私の音楽プレーヤーとして便利に使われていたのだった。
そのまま時が流れていればこれから書くことは起こらなかっただろうが、このR-09を会社(私のオフィスは遠いのだ)に常時置いておくことになった。音楽プレーヤーが亡くなることもそうだが、生録用の機材がDATしかなくなってしまう。それでもよかったが、いざ数ヶ月ぶりに動作させてみたらなんと故障している?ではないか!ということで、ゴールデンウィーク直前機材選びはスタートするのだった。
軽い気持ちでとりあえず?
ちょっと前のこと、友人が「 D50 かったぞ、なかなか良いぞ」という電話をくれた。なるほど~、かれはSONYのDATを持っていたもんな。選んだ理由もわかるし、音質面での信用できそうだな、と思っていた。せっかく一つ購入することになったんだから、前と同じものではおもしろくない。R-09よりは良いものにしよう。調べること三日。うん、これまでのDATと使い勝手はあまり変わらないようだ。音楽プレーヤーにするにはでかいが持ち歩けない大きさではない。十分に「今時」の機械である。ということで購入決定。
ここで終わらなかったのが悲劇(喜劇)の始まりだ。ほぼ同じ時期にナレーション録音用のマイクを1本購入することにしていた。半分お遊び、お歌も録音できればいいかもね。あっ、D50買ったんだし、マイクを注文するときにもう1本手持ちのマイクをグレードアップしよう。 まっ、ちこっと迷って、 NT4 に決定。うん、グレードアップになった。前に使っていたものよりもっと落ち着いた音がするし、解像度も高い。マイクを一本立てて録音するならこれで完成だな。
何のために録音するのか
では、D50を買ってついでにマイクもグレードアップしてなにを録音しようというのか?言うまでもなく私は音楽を録音することが多いはずだ。ホールで録音するような大規模なことにはならないと思うが、アコースティック楽器の録音をすることが多いだろうなと思う。そう考えながらウェブサイトをうろうろしていると「クラシック録音Q&A掲示板」というのを発見した。これは参考になる。
そうだったな、学生時代はクラッシックの録音やハンドベルの録音、演劇の録音はマイクを2本使って録音したものだった。それにしても、ステレオ録音するマイクセッティングの方法だけでこんなにいろんな考え方(AB, ORTF, NOS, XY, MS等々)があって、使い分けるものなんだな。で、今自分が持っているのはXY方式とMS方式なわけだ。では他の方式にチャレンジするとしたら?さっ、破綻しますよ。
っていうか?つながらない?
ORTF, AB, NOSといった方式のマイクセッティングを行うには基本的に2本のマイクを使用する。これまでは2本文を一つにまとめたマイクを使っていたわけだが、左と右でそれぞれ別々にマイクを使うのだ。要するに2本マイクを購入しなければならないわけだ。
で、ちこ~っと迷って(迷えるほど財力がないからほぼこれに決まるんだが)、 Rode NT5 という2本一組で売られているものを購入した。NT4もそうだが、NT5は、その仕組み上外部からマイクに電源を供給してやる必要がある。前述したようにNT4は電池でも動くが、NT5は必ず外部電源が必要だ。一般的にはマイクアンプであるとかミキサーであるとかあるいは電源供給専用の機材からマイクに電気を供給する。今回の私の場合はレコーダー本体が電気を供給してくれるのがいちばん自然な感じだ。がっ。
PCM-D50は、NT5を動かせるだけの電気を供給する機能を持っていない。もっと小さなマイクを動かすための機能「プラグインパワー」はあるが、これではだめなのだ。もちろんそれをわかってマイクを購入しているわけだが、はて、どうやって電源を確保するか。解決法は以下のどれかだ。
- SONY純正のオプション品 XLR-1を使う: 値段が高すぎる
- 安価な電源ユニット ART Phantom II などを使う: いちばん現実的
- いっそのことマイクアンプごとグレードアップしてしまえ: たぶん音質は向上する、わたしはこれを選択
ということで、マイクアンプ(プリアンプ)を選ぶこととなった。
えっ?S/PDIF, AES/EBUって、そんないい加減なの?
さて、このプリアンプというものは意外と高価であることがわかったのだ。 そもそも単体でプリアンプを使うと言うことは音質や環境にかなりこだわってい ることを意味しているから高価になるのも当たり前なのだが。で、選ぶ基準は
- XLR-1(純正ユニット)より安いこと
- ちゃんとマイクに電気を供給してくれること
- できれば電池で動くこと
- 接続が容易であること
ということにした。これで機種選定に入ったのだがなんと、あまり良いものが見あたらない。上記掲示板で質問してみると、みなさま親切に答えてくださったのだが、10万円をかなり超えてしまうものも少なくない。仕様温度範囲を見ても-20dC~という過酷な状況でも動作するように設計されていたりと、やはり業務用なのだ。まさかそういう環境では使わない...。もちろん音質は良いのだろう。
さて、そんな中コンピュータに接続して録音を行う「オーディオインターフェース」という種類の機器を紹介してくださった方が複数あった。なるほど、このような機器の中にはコンピュータに接続しなくても動作するものもあるのね?うん、こいつらにはデジタル出力(S/PDIF出力)が付いているな、これをPCM-D50に接続すれば音質的にも有利だろう。紹介してくださったのは、
の2機種。前者を購入してみた。さっ、これでめでたく終了するかな?
音声のデジタル信号の伝送には複数の規格がある。よく知られているのは、主に業務用に使われているAES/EBUと、主に民政期で使われているS/PDIFの2種類だ。相互には物理的に接続できない、ケーブルとコネクターが異なるからだ。中を流れているデータにも完全な互換性はない。一応相互に接続しても音だけは出るようにしてはいるらしい...。
さて、Konnekt 8が到着。マイクを接続して音出し。うん、ちっとぎすっとしてるかな?トータルに考えれば良くなってるかな?で、おもむろにD50のデジタル入力にKOnnekt8を接続。おっ!録音してくれないぞ?!なんでじゃっ!
Konnektのマニュアルをよくよく読んでみると、「S/PDIF プロ・ビット」と書かれている。どういうことだっ?メーカーに問い合わせたところ、機器の種類を示すデータが「業務用」になっているので、民政期とは接続できないだろう、という回答だった。そんなのS/PDIFじゃない!S/PDIFは民政期の規格なのだから。データだけ業務用を流しているなんてなんてこった。
紆余曲折あって、Konnektはメーカーにお返しすることとなった。販売店に「私みたいな間違いをする人はいないんですか?」って聞いてみたら「結構いるらしいです、私もあの書き方では間違えます」という返答が帰ってきた。
ということで、話は振り出しに戻ったのだった。
ちなみに、PCM-D50は光(TOSLINK接続)の端子が付いている。KONNEKTはRCA端子である。相互には接続できない。なんらかの変換ユニットが必要になるわけだ。調べてみるとそのためのLSIが発売されているし、キットもある。私のような軟弱ものは完成品がほしい(笑)ので、 AT-HDSL1 を購入。結局これをどこに使うか思案中。
これもだめなの?!
さて、プリアンプ選びは続くのだ。すでにバッテリーで動くことは諦めた。改めていろんな機種を見てみると、二つが候補になった。
某楽器店でこの二つの話を聞いてみた。やはり、前者の方が素直な音が録音できるようだ。使ってみないとわかんないんだけどね。そういうことで、386を購入することにした。余談であるが、386といえば、同名のCPUが20年近く前に発売されていたな、妙な親近感。386には386DXっていうバージョンがあったな。ついでに当時386を使っていたパソコンメーカーの代表はNEC、PC-9801BXっていう機種があったな、BX, DX, 386、DBX 386(笑)、はい、なんの関係もありません。
実物到着。マイクを接続して、D50を接続。386から出力されるデータ形式をS/PDIFに設定。あれっ?D50から音が出ないぞ?録音できないどころか音が出ないのだ。386の設定をいじっていると、サンプリング周波数が44.1kHzと48kHzの時はちゃんと録音できて、96kHzの時は録音できないことがわかった。なんてこった!いったいどっちが規格違反をしているのか?ちなみに、ヤマハのHDDレコーダーに接続したときは386をどんな設定にしても録音できている。
う~ん、そもそも録音機選びを間違ったかもしれない...。それにしても、規格というのはこういうトラブルを避けるためにあるんじゃないのかな。いやはや、どうしたもんか。ということで、相互に接続できない機器が微妙にそろってしまったのだ。
えいやっ、レコーダーを買い換えよう
とにかくS/PDIFが録音できればよい。もちろん使いやすいに越したことはないが繋がるものがほしい。なんだかんだとこれまで結構な額を使った。そういえば今年は楽器も買った。オーディオラックも買った。ということで、ちょうど発売されたばかりの M-AUDIO MicroTrack II を購入した。CFカードに録音するのだが、なんと本体よりカードの方が高くなった(笑)。この機種は、NT5のようなマイクに電気を供給する機能を持つ。極端に言えばSONYのレコーダーも386も必要なかった。最初からMicroTrackだけでもよかったのだ。ちょいと悔しい。
気を取り直してとにかく386を接続してみた。386をS/PDIFモードに設定。もっとも音質のよい96kHz/24bit設定で録音開始。はい、あっさり録音できました。やっとシステムは完成したのだった。ちなみにMicrotrackは、386をAES/EBUフォーマットに設定してあっても録音できる。もちろんこの設定は規格的には問題があるのだろうが。
私なりの結論
まず、楽器店で売られているものと電気店で売られているものの両者を接続するのはとっても難しい。今回はデジタル出力でトラブルに巻き込まれたのだが、アナログ接続でもかなり考えないといけないことがある。機器の端子形状が異なるため適切な変換アダプターやケーブルが必要になる。また、電送方式(平行/不平行)を考慮して接続しなければならないだろう。そんなこと、電気店で売られているものだなら考えなくてよいし、楽器店で売られているものだけならもっと楽だったはずだ。
機器を選ぶときには、この楽器店の限界と電気店の限界を知ることが重要である。電気店で売られているものだけで考えると、あまり高音質は望めない。が、バッテリーの持ち時間が長かったり(PCM-D50は20時間も録音可能だ)、普段必要なものが比較的簡単に手に入ったりするメリットがある。ICレコーダーなんかもそうだ。楽器店で売られているものは組み合わせによっては相当な高音質もねらえる(もちろんお金はかかる)。が接続が複雑になったり、どうしても電源が必要になったり、誰でも扱えるものではなくなったりする。パーツが一つ欠けても、それらはどこでも売っているわけではないから、システムが成り立たなくなることもある。
そして目的をはっきりさせなければならない。どこでどんなものをどんなスタイルで録音するのか。あるいはどのくらいの音質を求めるのか。そうは言っても難しい。これから録音を始めてみようと思っているならなおさら難しい。前述の限界と照らし合わせてどっちにするかを考えればよい。
ということで、私は、気軽に録音したいときはD50だけを持って行くかもしれない。足してもマイク1本で完結するNT4だろう。ちょっとがんばって録音するときは、MicroTrackとNT5となる。本格的にセッティングができるなら386も連れて行ってデジタル接続してMicroTrackに録音する。結果としてはいろんなバリエーションに対応できることになったが、なかなか高額な買い物になった。こうなったら、いろんなところで録音させてもらって技術を磨くしかない。なんたってもったいないじゃないか。
